半導体をめぐる国際間の争いのリアル【2030半導体の地政学】

半導体の地政学?
半導体に地政学の要素?
これが、なかなかスリリングな世界なんです。

メディアで最近聞くようになった「地政学」というこの言葉は、地政学とは、一般的には地理的な条件がどのように国際政治に影響を及ぼすか?という学問なのですが、現在では軍事力であったり、エネルギーであったり、などの切り口で語られる本もたくさん出てきました。

この本は地政学を半導体という切り口で、国際間政治などを解説した内容となっています。

半導体が不足することによる不便な現象が、すでに日本でも目に見えるかたちで起きています。給湯器の故障を修理するために半年待ちとか、新車の納品が一年後とか、エアコンや洗濯機などの白物家電の一部商品が買えなくなっているとか・・・

半導体の主導権を握る国が、国際的な主導権を握ることができる。
スリリングな半導体の世界が描かれた一冊です。

この本ってどんな本?

300弱のページ数で、読み終わるのには4〜5日といったところでしょうか。
細かい章立てになっていますが、一気に読むことをおすすめします。
全8章の構成となっています。

近年の半導体事情

半導体の地政学としてのキープレーヤーは、アメリカ、台湾、中国です。
この3国を中心に現在の半導体の世界が動いています。

2018年に戻ると、半導体のシェアは中国企業のファーウェイ製が34%で、さらにその内訳として、世界の5G通信の基地局に使われる半導体の3分の1がファーウェイ製だったとのことで、軍事や経済で重要な役割となる通信の分野が、中国に握られる危険性を感じたアメリカが行動に出ることなります。

実際の危険性として、バックドア(裏口)といわれるスパイシステムを半導体に組み込み、各国間の情報が筒抜けになる可能性があるとのことで、アメリカは2020年にファーウェイに対し、アメリカ製の機器やソフトを使った製品をファーウェイに輸出することを禁じた規制を始めます。

そして
現在の最大の半導体製造会社は台湾のTSMCです。世界全体の59.40%を製造するそうで、圧倒的です。この圧倒的シェアを握っている台湾をめぐる争いが行われています。

この3〜4年ですっかり状況が変わってしまっています。
現在は台湾TSMC一強といったとこでしょうか。

アメリカの事情

この本は、アメリカの半導体事情についての解説から始まります。
半導体を製造するのには20近い工程があり、設計と製造が別会社のケースが多いそうで、

半導体の実際の製造を行う会社のことをファウンドリー企業、
自社で工場を持たない半導体の設計のみを行う企業をファブレス企業(ファブ=工場)
と呼ばれています。

例えば、Appleはファブレス企業で、Appleで設計したチップを、ファウンドリー企業で作ってもらうスタイルなのだとか。

いま半導体の世界で主導権を握っているのが、実際の製造を行うファウンドリー企業で、ファウンドリー企業の世界最大手が、台湾の企業のTSMCという会社で、世界全体の59.40%を製造し、第2位のサムスン電子が13.05%というバランスとなります。

アメリカとしては、半導体の製造までを行うサプライチェーンを自国内で全てまかなえるようにしたいとの意向を持っており、台湾に働きかけてTSMCの工場をアメリカ国内に誘致し、韓国からはサムスン電子がアメリカに工場を建設するという状況です。

この工場誘致には、TSMCやサムスンの意向のほかに、国際間の政治状況も絡んできた上で、アメリカに工場を建設するという結果になったとのことで、現在の半導体をめぐるアメリカの状況がレポートされています。

台湾の事情

台湾争奪戦として、台湾のファウンドリー企業のTSMCをめぐる争いが描かれています。

現状ではTSMCの圧倒的優位な状況が続いているとのことで、TSMCの圧倒的な優位の源泉は技術力にあるようです。

半導体においては回路線幅を狭くすることが重要で、狭い幅を実現できるとそれだけ多くの回線を書き込むことができるという論理なのだそうです。

回路線幅が7ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)を初めて実現したのがTSMCで、現在では3ナノメートルの量産化に入り、さらに2ナノメートルの新工場の設立中だそうで、このレベルを実現できるのはTSMC一社なのだとか。

台湾のTSMCを中心とした国際間のせめぎ合いがこの本に描かれています。国際間の関係が半導体を中心に、実質、台湾を中心に動いていることがわかる内容になっています。

結果として、台湾付近での軍事演習などが、アメリカや中国で行われるなど、この本では半導体が台湾の軍事的な緊張が、これまで以上に高まっている様子がレポートされています。
中国が台湾に対するプレッシャーをかけていますが、半導体の切り口から見ると別の絵が見えてきます。

中国の事情

近年のアメリカの規制により、台湾のファウンドリー企業のTSMCに製造を委託できなくなった中国の難しい現状が描かれています。

中国も対応を進めていて、国内生産に舵を切る必要が出てきたことで、中国政府は多額の資金が必要な半導体事業に対して、公的資金の注入を進めていて、その額は10兆円程度になったそうです。

さらに中国や日本からの半導体の禁輸措置が、国内企業の成長を後押ししたのだとか。もちろん中国国内でのサバイバルは熾烈です。そのレポートは本書に詳しく解説されています。

さらに中国は、台湾、韓国、アメリカ、日本、を使わない半導体のサプライチェーンの構築にも力を入れており、その様子も描かれています。特にシンガポールへの接近ぶりについてはなかなか密接なものがあります。

少し深読み

2018年のさらに昔になると、キープレーヤーは日本でした。アメリカからのプレシャーが原因の一つだったそうですが、現在では台湾のTSMCがキープレーヤーです。

先日、日本の大企業8社が、2ナノ対応の半導体を作る会社を共同出資で作るとのニュースがありました。共同出資会社がどの程度成長を見せるのかがわかりませんが、日本が半導体復権の賭けに出たようにも見えます。

半導体が国防にまで関与するとは、昔は想像もつきませんでしたが、今は必須で、本当にすごい時代になったなと感じます。

スリリングな半導体の世界を知ることができる本です。
面白かったです。

ではでは。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA