半導体。知っているようで説明できないものの一つだと思いますが・・・?
実際にスマホやパソコン、最近の家電なんかにも組み込まれている半導体。
ただ、実際に半導体とはどんなもので、どのように使われているかを説明するのは難しいと思います。
そもそも半導体ってなに?
あの黒いチップの中になにが入っているの?
どうやって作るの?
疑問だらけの半導体の基礎知識が学べる本です。
さらに、このコロナ禍で半導体不足が起きて、家電や車の安定供給ができない現象があちこちで出ましたが、なぜ起きたのか?どの国で半導体は作られているのか?このあたりの世界の状況もつかめる内容になっています。
この本ってどんな本?
全200ページ強程度の内容です。
2〜3日程度で読み終わると思います。
全5章の構成で、半導体の現状、そもそも半導体とは?という素朴な疑問、半導体の歴史、半導体の世界の動向、半導体の未来予測について順を追って解説してあります。
1章
半導体の現状についての基礎知識編です。
半導体における世界の現状が書かれています。
ビジネスパーソンがざっくり世界の動向をつかみたいのであれば、この章を読むだけでも現状がわかってくると思います。
コロナ禍で半導体不足がニュースになりましたが、給湯器やエアコンの修理ができないとか、車が納車できないとか、半導体が他に代替が効かないものということを実感したのですが、
ならば、工場を作って生産能力を増強しよう!となったとしても、半導体の工場建設には莫大な費用がかかるそうで、世界最大手の台湾TSMCの工場は、総工費9800億といわれているそうです。(ちなみに原子力発電所の原子炉一基が4000億円程度)投資額が大きすぎます。
半導体はインフラや国防についても、なくてはならないものになっているので、国際間のやりとりや駆け引きなど、政治的な問題にもなっているそうで、そのあたりの説明がわかりやすく書かれています。
2章
そもそも半導体とは?がこの章のテーマです。
電子部品の緑の基盤に四角の黒い塊で、足がたくさん出ているパーツを見たことがあるかと思いますが、あれがビジネス上で語られる半導体となります。
いろいろな形があるようですが、ざっくりこんなやつです。
この黒い四角の中にさまざまな電子回路が書かれているというイメージです。
こんな小さいものにどうやって回路が入っているの?と思われるのでしょうが、回路を印刷したものの裏側から光を当てて、黒い四角(以後、ウエハー)に焼き付けるのだそうです。
その際に、あの小さいサイズの半導体にするために、縮小レンズを使って回路を縮小した情報を焼つけるのが基本的な作り方になります。
そこにいくまでの前行程や、焼き付けた回路情報に電子信号が流れるようにする処理、たくさんの足の埋め込みなどの、後行程、そして生産効率を上げるために、大きな丸いウエハーに一気にたくさん同じものを作って、それらをカットする、などなどの多くの工程の説明がされています。
ここでの紹介も、かなりかいつまんだものなので、詳しくは本書で確認してほしいのですが、ただ、本書で書かれたことも概要なんだろうなという感じです。相当の技術力が詰まっていることは理解できます。
もう一つ知っておくべき基本情報として、設計から製造そして組み立ての工程があるのですが、この本では2種類の工程が説明されています。
垂直統合型・・・設計から製造そして組み立てを一社で行う。
水平分業型・・・設計、製造、組み立てが全て別の企業で行う。
昔は垂直統合型が主流で、今は水平分業型が主流なのだそうです。理由として製造には巨額の設備投資が必要で、さらに進化が進んでいるため、追加の投資が必要なこと。
そして、インターネットで情報スピードが向上したので、各工程を分離しても成立するようになった。あとは軽くて小さいので、現物を運びやすいのも大きな理由なのだそうです。
3章
この章は半導体進化の歴史についてです。
半導体が発明されるまではどうやっていたのか?
その役は真空管が担っていたのだそうです。
真空管は今でもこだわりのオーディオなどに使われているので、比較的イメージがつきやすいですが、これが1904年の発明だそうです。
この真空管は大きくて重くて壊れやすいなどの欠点を抱えていたため、その後トランジスタが発明されて、
この発明のおかげで、小型のラジオや補聴器などが実現したのですが、通信の分野ではあまり使えないものだったそうです。
しかし機器が複雑になるにつれて、上の写真のようなトランジスタなどを、ハンダ付けしていく作業が膨大になってきたなどの理由で、その後IC(集積回路)が発明となります。
ひとつの半導体基板の上に、トランジスタなどを組み込んでしまうというアイデアで、この後、密度の向上などの進化が進んでいき今に至るという感じなのだそうです。
この半導体の日本の生産シェアは、1988年に世界シェアの50%近くをとっていたのが、2019年には10%まで低下しています。ちなみに2019年のアメリカの生産シェアは50%で、現在はさらに違う状況になっています。
4章
この章は現在の半導体の国際動向がテーマです。
2021年の世界の半導体の売上は、5559億ドルで日本円にして約72兆円で、しかも現在も年率10%のペースで成長しているとのこと。
そして、2021年の半導体設備の設備投資額は1520億ドルとのことで、こちらも大きな額です。なんでそんなにかかるのか?
例えば、半導体の回路を焼き付ける露光機器の最新型は200億円だそうで、とにかくお金がかかる世界という一端をのぞくことができます。
ちょっとした企業なら丸々買収できる額で、その額を設備投資するのは、凄まじすぎて想像の範囲を超えています。
しかし、この規模のお金が集まる業界であっても、半導体不足が起きているのも事実で、この非常に不安定な半導体の供給の理由は、いくつもの理由が組み合わさって起きているのですが、一つの半導体にたくさんのキープレーヤーが存在するイメージで、欠けると成立しない。そんなイメージです。
詳しくは本書に書かれていますが、意外に幅広い業種の協力が必要だなと感じました。
5章
最後の章は、半導体の今後についてです。2030年までには一兆ドル規模に成長する見通しとのことです。
この成長の予測の一つの根拠として、半導体が組み込まれる商品やサービスの範囲がどんどん増えていくのが、その理由の一つとして考えられているそうで、半導体供給の不安定さは今後も大きな課題の一つと考えられています。
産業や国防にも影響がある分野であることで、国際関係や政治なども影響を及ぼす状況が書かれていて、その中で日本が存在感を見せていくための提言もあります。
少し深読み
子どもの頃に半導体の四角の中身を知りたくて、割ってみたことがあるのですが、今となればわかりますが、黒い断面が出てきて、いったい何?と思った事があります。
この本で、進化の歴史やどういったものなのかが概要がつかめて、子どものころに思った、何?の疑問が少しだけスッキリしました。
半導体不足で給湯器が故障したら半年は直せないというニュースを見た時に、なんの冗談なのかと思ったのですが、この本を読むと理解ができます。
国内の生産力を上げることができれば、国際的に存在感が出てくると感じました。興味深い世界です。
面白い本でした。ではでは。